シンポジウム
【コロナ禍に対応する外国語教育への視座―大学の経験と将来への展望―】

日時:2022年3月4日(金)13:30-17:10
場所:Zoom開催(URLは申し込み後にお知らせします)
参加費:無料(要事前申し込み)
言語:日本語

主旨:
   世界中のあらゆる分野に甚大な影響をもたらした「コロナ禍」によって,2020年度以降の大学における言語教育は感染拡大を防ぐ対策を考えながら運営することが必須となりました。2020年度の学年暦変更に始まった「コロナ禍」対応は,同期型オンライン授業,非同期型オンライン授業,あるいはそれらのハイブリッド授業などのオンライン活用への取り組みへと続きました。さらには,対面授業再開に向け,教室定員の見直し,着席禁止シートの指定,消毒液の常備,非接触型体温計およびアクリルボードの設置,ワクチン接種後の学生のための追試の追加実施などの準備を行ってきました。今後は,ブレンド型,ハイフレックス型などの教室とオンラインを結ぶ授業への対応を迫られることもありうるでしょう。
 しかし,これまでの私たちは,これらの対応の経験を広島大学以外の先生方と共有する機会を持つことが十分にできず,限られた情報の中での対応が精一杯でした。他大学ではどんな議論があり,どんな知恵が絞られ,どんな対策が施されてきたのでしょうか。そこで本シンポジウムでは,オンライン授業に限らない幅広い意味での「コロナ禍」への対応という観点から,ご経験を共有してくださる先生方3名をお招きいたしました。折本素先生(愛媛大学)には,愛媛大学英語教育センターの組織的な取り組みについて,岩中貴裕先生(山口県立大学)には,オンライン授業で言語学習観の変容に取り組んだ事例について,尊田望先生(山口大学)には,パンデミック下における英語授業を対面とオンライン形式を比較対照させた振り返りを,ご講演いただきます。さらに阪上辰也准教授が本センターの取り組みについてお話いたします。最後に,将来への展望も含めた質疑応答と全体討論の機会を持ちたいと思います。

「2020年度新型コロナ緊急対応
―愛媛大学英語教育センターの組織的取り組み実践例―」

折本 素(愛媛大学 教育・学生支援機構副機構長 英語教育センター長)

 2020年度は,新型コロナウィルス感染の拡大により,初等・中等教育機関のみならず,大学においても,前例のない緊急対応が求められました。個々の教員の対応が求められたのはもちろんのことながら,新入生の必修科目となっている「英語」のように,組織として,担当教員全員が統一授業方針で授業を行っている科目は,どのような感染予防対策を取り,どのような方法で教育機会を保証するかを,きわめて短期間の中で,スピード感を持って決定し,周知し,実施する必要がありました。

 愛媛大学英語教育センターでは,緊急対策チームを立ち上げ,前学期は,全教員がMoodleを利用した非同期遠隔型授業を実施できる準備を行い,後学期は,1クラスを2つのグループに分けて,教室での対面授業とMoodleによる非同期型自宅課題学習を組み合わせたハイブリット方式の授業を計画し,実施しました。これに際し,遠隔授業で対応可能な科目(Listening / Writing)と対面での授業が必要と思われる科目(Speaking)の学習カリキュラムの順番を,急遽変更するなどの応急対応を取りました。英語教育センターが行った組織的な緊急対応の実践例とその結果及び課題,そして,今回の緊急対策を実施することにより見えてきた今後に生かせるメリットなども合わせて紹介したいと思います。

「オンライン授業で受講生の言語学習観を変容させることはできるのか?
―受講生同士によるインタラクションの機会の創出―」

岩中 貴裕 (山口県立大学 国際文化学部国際文化学科 教授)

 オンラインでの授業も2年目に入った。手探り状態で日々の授業を何とか行っていた昨年と比べると,2年目に入った今年は教育効果を考慮した上で授業を行うことができるようになった教員が増えたのではないだろうか。発表者は対面で行う授業においては,受講生が体験的学習観を持つことを促すような指導を実施している。体験的学習観を持つ学習者は分析的学習観を持つ学習者と比較すると,より多くのインプットに触れ,インタラクションとアウトプットの機会が増えると考えられる。Ogawa and Izumi (2015) は学習観,好んで用いる学習方法,英語力,英語に対する自信度の関係について以下のように報告している。

  1. 英語力の低い学生は,分析的学習観を強く持ち,一方,英語力の高い学生は,体験的学習観を強く持つ傾向がみられた。
  2. 英語力の高い学生も低い学生も,分析的学習は同程度の頻度で行っていたが,体験的学習においては,英語力の高い学生の方が低い学生よりもより多く行っていることが確認された。
  3. 体験的学習を多く行ってきた学生の方が少ない学生よりも,自分の現在の英語力に対して自信度が高くなることが認められた。

 本授業実践では,オンライン授業において受講生の言語学習観(beliefs about language learning)を変容させることを試みた。受講者数は62名で英語力はCEFRの基準でA2~B1程度であった。半年間以上の留学経験や日常的に英語を使用する機会のある者は含まれていない。教育的介入によって,受講生が体験的学習観を持つように働きかけた。対面で行う授業と比較すると様々な制約はあるが,半期の授業(15回)を通して受講生の言語学習観を望ましいものへと変容することが可能であることが確認できた。その取り組みを紹介する。

引用文 Ogawa, E. & Izumi, S. (2015) Belief, strategy use, and confidence in L2 abilities of EFL learners at different levels of L2 proficiency. JACET Journal, 59, 1-18.

「パンデミック下における大学英語授業の取り組み」
尊田 望 (山口大学 非常勤講師)

 山口大学ではパンデミック当初の2020年前期は遠隔授業を実施したが、その後、感染防止対策を万全に記した上で、比較的小規模の授業は対面に戻した。英語授業に関しても、長期休暇後や感染発生時などには遠隔授業に切り替えることがあるが、原則は対面での授業を行っている。本発表では、まずオンライン授業における不利点と利点とを述べ、次にパンデミック下における対面授業時の困難と、パンデミック以前と比べて逆に進歩した面とを分析する。オンライン授業の不利点としては、主に、デバイスやネット環境やオンラインツールなど技術上の問題の他、モーチベーションや対人関係などの社会心理的なものがあげられる。逆に、利点としては(技術上の問題がクリアできているという条件で)、対面時よりも視聴覚関係の環境が優れていること、グループ分けなど物理的対応がスムーズなこと、教室という限られた環境から脱せることなどがあげられ、ある意味では対面授業よりも有利な点さえある。次に、パンデミック下で対面授業を実施する場合、マスク着用、換気の必要性やソーシャルディスタンスなど物理的なチャレンジの他、オンライン授業との併行利用の場合の混乱などがあげられる。しかし、こういった様々な課題やオンライン授業との葛藤もある中、対面授業だからこそ味わえる強みもある。まず何よりも、人と会って直接話をできることの喜びである。パンデミックにより、しばらくの間隔離生活が強いられたからこそ、人とのふれあいの重要性を改めて考えさせられ、そのありがたみを感じさせられた。それは学生も教員も同様である。だからこそ、授業にも気合が入り、会って共に学べる時間を大切にするようになったと言える。また、パンデミック以前にあまり活用することのなかった様々なオンラインツールや教材を知ることができた。これらは、パンデミック後も使えるものである。著者の経験に限って言えば、パンデミックは最初は混乱をもたらしたものの、最終的には授業の質を高め、より効率的・効果的に実施することを促すことになった。結論としては、オンライン授業でも基本的に授業は成り立つことも事実である一方、選択の余地があれば、究極的に、対面授業はオンライン授業よりも好ましい。今後、対面授業を基盤としながらも、必要に応じてオンライン授業を導入することで、コロナ禍以前よりもさらに効果的な英語教育が実践できると言えよう。

「外国語教育のDX化を見据えた現在の取り組みと今後の課題」
阪上 辰也(広島大学 外国語教育研究センター 准教授)

 コロナ禍となり,オンライン授業へと一気に切り替える必要が生じ,その実現のために,教員による<努力と熱意と創意工夫>がますます求められることになりました。そして,授業の質を落とすことのないよう,また,より効果的な授業を実施できるように試行錯誤を繰り返しながら,授業のオンライン化に取り組む中で,対面式授業でなければ困難なことや,対面式であることにあえてこだわる必要はない部分などが見えてきたように思います。そして,世の中に,「DX」(デジタル・トランスフォーメーション)という用語が盛んに現れるようになり,教育現場においても,DX化が求められつつあると発表者は感じているところです。

 本発表では,DX化を目指す英語科目をひとつ取りあげて,その内容とDX化に向けての取り組み状況を紹介したいと思います。具体的には,当該科目においてどのような教材を扱ったか,同じ科目を担当する教員間での連絡や協議をどのように実施したか,学生からの問い合わせにどのように応じてきたか,学習成果をどのように評価したか,LMSをどのように運用してきたか,といった点について説明いたします。発表の終盤では,DX化を進める中での課題として,取り組み状況の思わしくない学生にどのようにアプローチするか,また,継続的な語学学習の習慣をいかに形成するかについて話題を提供し,参加者のみなさまからのご意見等をいただきたいと考えています。

 

スケジュール
13:30開会のあいさつ
13:40-14:302020年度新型コロナ緊急対応
―愛媛大学英語教育センターの組織的取り組み実践例―
折本 素
14:30-14:40休憩
14:40-15:05オンライン授業で受講生の言語学習観を変容させることはできるのか?
―受講生同士によるインタラクションの機会の創出―
岩中 貴裕
15:05-15:30パンデミック下における大学英語授業の取り組み尊田 望
15:30-15:40休憩
15:40-16:30外国語教育のDX化を見据えた現在の取り組みと今後の課題阪上 辰也
16:30-16:40休憩
16:40-17:10質疑応答/全体討論
17:10閉会の挨拶

   参加される方は,以下の「参加申込フォーム」から 2月28日(月)までに ご連絡くださいますようお願いいたします。

参加申込フォーム (締切となりました)

 また,当日は10:30-12:00に2021年度 外国語教育研究センター教育実践研究報告会 を予定しており,参加申込フォームは共通のものになっています。